紫煙を燻らせて
少々長くなるやもしれませんが。
僕は煙草が好きです。
元は大嫌いで、喫煙者に嫌がらせをするような中学時代と、ヘビースモーカーな父親を文字通り煙たがるという。喫煙者にとってこれほど迷惑な対応はないという時期がありました。
それがなぜ喫煙者になり、「煙草が好きだ」と公言するまでになったのか。
ささやかな物語にしばしお付き合い願います。
ことの始まりは高校2年の冬。
進路に悩む少年・マツルは、地元で1番家から近く「名前を書けば受かる」と蔑まれた市立の学校に籍を置いておりました。
「マツルよ、もうちょっとちゃんと考えろよ」
先生は口を揃えてそう言います。
「いや、わかるよ?かっこいいしな。名前的にも場所的にも。でもお前、今までのテストの成績見たらわかるやろ?もうちょっと現実的に…」
「わかった。じゃあ京大にする」
「ん?なんでそうなった?同志社が第一、立命館が第二やったやん。なんで上がった?」
「え、なんとなく?」
この頃の僕は、進学やら就職やらに現実味を持てませんでした。
それでも、なんとなく大学には入れて、気の合う仲間を見つけてバンド組んだりして、そばかすのチャーミングな女の子と恋に落ちたりなんかして、ダラダラやってる間に現実が重くのしかかってくるとかこないとかで、24の歳には交通事故で死んでしまう予定を立てていたのです。(どこの「ソラ○ン」やねん)
「お姉さんが同志社女子で、従兄弟のお兄さんが同志社やっけ?まあそれで京都に出たいと思うのはいいねんけど、ほら京都にはもっと色んな大学もあるしさ。調べてみいや」
そう言った先生は、僕に一冊の冊子を渡してくれました。これが後に、我が母校となる大学への入口となるのでそこまで早送り。
3年になって初めての進路指導の時間。
僕は先にもらった冊子をパラパラと開いておりました。逆を言うとこの日までその冊子は開かれず学校のロッカーの奥の方に大事にしまわれておりました。
パラパラとしていると、一際堅苦しい漢字の羅列を見つけました。
そう。この大学こそが我が母校となる大学。
なんとなく目に入った事がきっかけで調べてみると、その週の土日にオープンキャンパスがあるらしい。その上学科を見ておりますと映画学科などと言うなんとも胡散臭い、面白そうな学科を発見。
「これは行ってみよう!」
と思い立ち、とりあえず進路希望表に大学の名前を書いておきました。
さてはて、ここまで煙草が一切出てきて無いじゃ無いかとおっしゃる皆皆様。やっとここからです。
土曜日になり、僕は京都へ赴きます。
未知の世界へ旅立つ冒険者の如く。
期待と高揚感に満ち満ちていました。
最寄駅である叡山電鉄茶山駅には、今からオープンキャンパスであろう人がちらほらと。
僕は本館へは行かず直接高原校舎へ向かいました。正面から入り、校舎下をくぐって中庭を過ぎたところが今回の目的地。京都造形芸術大学映画学科高原校舎のAスタジオ。その向かいにあるのがBスタジオ。そして、2つのスタジオの中通路の先にハナミズキが1本、雄々しく仁王立ちしておりました。そして、それを囲むように何やら風格を漂わせたお兄さんお姉さん方が煙草を蒸せている。
それを見た僕にはドカーンと雷が落ちました。
「かっこいい」
何が?と言うわけではなく、何やら格好良く写ったのです。
たぶん、人がと言うよりハナミズキに圧倒されたんだと思います。ハナミズキを中心にぐるりと置かれたベンチと灰皿。そこに人が集まる様が僕の感性に響いたんだと。
オープンキャンパスを楽しく終えて地元に戻った僕は京都造形芸術大学への進学を心に決めておりました。
元来、真面目という性分を隠さずにいられなかった僕は、オープンキャンパスの帰りに煙草を買うなんて勇気はなく、父親に「一本ちょうだい」なんて言うこともなく春を過ごしました。
それからもオープンキャンパスや映画学科の舞台公演に足を運び、人脈を確保しながらも平穏に高校生をしておりました。
そして夏季コミュニケーション入学の受験を合格して大学からの課題をこなす毎日。
そんな中1本のテレビドラマを見ました。
「ダブルフェイス」
西島秀俊さん、香川照之さんらが出演する刑事とヤクザのスパイドラマ。これがまた面白いのなんのと。
そして、その中で西島秀俊さん演じる森屋純が吸っていたのがラークの12mg。
よく赤ラークと言われている煙草ですね。
これを雨宿り中に吸っている森屋純が格好良かった。
そうして赤ラークへの思いを抱いたまま大学に進学。そこから20歳になってようやく赤ラークを買いました。
おい、チキンとか言うなよ。
さてはて、初めて吸った煙草が赤ラークと言うと割と皆さん期待されるかもしれませんが、煙草を吸っていて咽せたことは未だありません。
当時も少し強めのヤニクラを起こしたくらいで、至って正常に日常を過ごしていました。
赤ラークは「大人の匂い」という印象で苦味や辛味を感じることもなく、加えておいしいと感じることもなく。サラッと身体に入ってきました。
大人の匂いに心躍らせながらもどこかで「こんなものか」と思ったことを覚えています。
それからも好きな作品の好きな登場人物が吸っている煙草を吸ってみたいと、エコー・ショートホープ・アメリカンスピリッツ・マールボーロ・ジタン(カポラルが廃盤だったためフィルトレ)・ポールモール・ラッキーストライクを吸ってみてはやめ。
ジャケ買いでキャビン・ショートピース・プエブロ・わかば・ゴールデンバット・ウィンストン・ハイライト・キャメル・セブンスター・JPSなどを吸ってみてはやめを繰り返しておりました。
アメスピは燃焼時間の長さが、ジタンは販売店舗の少なさが、ポールモールも入手の不安定さが、キャビンは併合されて以降、プエブロは2箱連続で中の葉っぱが箱にぶちまけられていたとこが、ゴールデンバットはその辛さが、ウィンストンとわかばは癖を感じて、ハイライトとセブンスターはその重さから、JPSはジャケットと自分のミスマッチが理由で吸わなくなり、マルボロとラキストとピースとキャメルはたまに吸うくらい。基本的にはエコーとホープに落ち着いたのが大学3年の冬ごろでございました。
まだまだ吸ったことのない煙草もあるのですが、いささか当時の冒険心を失くしたことが相まって手を出すにまで至らないのが今の僕の紙巻きタバコ事情。おすすめがありましたら教えてくだせぇ…
それから時が経ち、大学も卒業しようかと言う頃。その時分になりますってぇと何故か遊びに遊ばれ金がない。そんなピンチを切り抜けるために手を出したのが手巻き煙草にございます。
しかし、喫煙も3年目になり巻かれた煙草に慣れてしまっているもんで右も左も分からない。とりあえず適当に買ってみるけどピタッと合わないなんてのが続きまして、ゴールデンブレンド・アメスピ・プエブロ・チェなんてのに手を出してはエコーを買う日々。
何故合わないのか、とりあえず現代科学に頼ろうとネットで色々調べますと、どうやら紙やフィルターが関係しているようで。
フィルターはもとより付けない派だった僕はとりあえず紙を変えてみました。厚手より薄手、漂白はせず無着色無香料。zigzagやrawなんかを通りましてsmokingのオーガニックヘンプ、シネスト、現在はブラウンを使用しております。(パルプだったんですね。ヘンプだと思ってた)
そうこうしてる間に大学なんてのは卒業しちまって、紆余曲折の末に上京。東京で彼女を作ったはいいが「煙草臭いよ」なんて言われる始末で。あんたも煙草吸ってるじゃないのとは言えないあいもかわらずチキン野郎。
そんな時、ネットで見つけたモテ男の秘訣が
「いい匂いのする男」
これだ!ってんでバニラ風味の煙草に目をつけました。
初めはコルツバニラから初めて、これだとバニラが強すぎる。スタンリーバニラ。ドミンゴは癖があるような気持ちでやめて、結局スタンリー。それでも匂いが強いことに悩んだ末に導き出したのが「他の煙草と混ぜてしまえ!」ってことでして、アンバーリーフを混ぜてみた。
これがなかなかな吸いやすさ。
試しにアンバーリーフ単体で吸ってみたらこれまた良い。よし!これだ!とは言ってみても他のも試してみたい。それで手を出したのがぺぺでした。
そのぺぺが思ったよりも気持ちよくて、スタンリーバニラとぺぺを1:2で混ぜ合わせて吸う現在に至りました。
これもまだまだ吸ったことのない煙草が多いんですよ。ほんとに。ただね、一袋買ったらなかなか無くならないでしょ?余計に冒険しずらいんですよ。おすすめ教えやがれください…
紙巻きタバコを吸い、手巻き煙草を吸い。着々と喫煙者としての自覚を持った僕。
それとは関係なく和装に興味を持ち始めます。
なぜ?って?そりゃ、BLEACHの7巻130ページの1コマ目から131ページをご覧なさいよ。浴衣を着たくもなるでしょうよ。
そんなこんなで阿散井恋次の花柄の浴衣に魅了された僕は浴衣を仕立ててもらうのですが、それはまた別の話。
仕立て上がった浴衣を着てみると、これがまた素敵だなんだって巷(僕の心の中)では大騒ぎになりまして「これに合う煙草が吸いたい!」と思ったのが運の尽き。新たな沼へと足を沈めるのです。
そう。煙管。
初めは3000円程度の真鍮煙管を買いまして、それはそれはご満悦。
葉っぱはもちろん小粋。
傾きまがいに逆上せたりなんかして。
それも3ヶ月で正気に戻りましたが、正気に戻ると火皿の小ささが気に入らなくなる。そこで火皿の大きい取り外し可能の宝船の煙管を買ってみるも、大きいのは火皿だけ。煙の通り道は狭いからもっと吸いにくい。
それからと言うもの、安い六角和幸を探したり見た目に魅入られて女持ち煙管を買ってみたり、高めの登り竜の煙管を買ってみたり。
そんな僕に運命の出会いが訪れます。
紅銅上下竹型煙管。
これに一目惚れ。ちょいとお高いけどお構いなし。火皿も大きい、光沢もある、羅宇が真っ黒で上品。
素晴らしい!!
即買い!!
やっぱり惚れた男は弱いですね。
いつもと変わらない葉っぱでもおいしいんですよ。
この頃には小粋の匂いを常用する事が少し辛くなってまして、吸いやすさでいろはに変えました。黒蜘蛛もいいんですけどね、いろはの方が細かいイメージ。
それでもたまに小粋が吸いたくなる。
そうして楽しんでいると、問題発生。
何かの拍子に雁首がポロリ。
しかしここは僕の最近の流行り。リペアです。
ホームセンターなんかに行って竹を買ってきまして、サッとリペア。
こうなると今度は自分で作ってみたくなりまして、現在彫金の修行中です。
さあ、ここまできたら周りが言い始めます。
「マツルくんは煙草好きだね」
「そうかな?まだ知らない煙草も結構あるんだけど」
「そうだよ。少なくとも俺から見ればそうだね」
なんて。
こうなればもう良いでしょう。
人生上見れば限りはないけど、下にだって人はいるんだ。まだまだなのは承知の上で、ここまでくらいは言わせてくれよ。ってんで。
「僕は煙草が好きです!」
さて、こんなことを書いてはみたものの、実を言うと煙草の美味しさや魅力をそれほど分かっていません。
というのも、日常化しすぎたせいか感覚が鈍いのです。
たまに匂いを感じようとしてみますが、どれも似たり寄ったり。もちろんフレーバーを楽しむことは出来るのですが、煙草本来の匂いは鼻に詰まったりすることがあるのです。
味なんて、どれも苦く熱く辛いという印象がほとんどです。
それでも、1人だろうと大人数だろうと煙草で過ごす時間は愛しています。心から何かを取り出す憩いなのです。
煙に酔わされているのか、自分に酔っているだけなのか。
それでも構わない。その時間だけが唯一僕を自由にしてくれている気がしてならないのです。
ここまで含めて、あの日見た煙草に未練たらしく想いを寄せているのかもしれませんね。